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村松篤設計事務所は、静岡県の西部、浜松市にあります。

お問い合わせはTEL.053-478-0538

〒432-8002 静岡県浜松市中区富塚町1933-1

 
伊丹・重層の甍
 (株)いなほ工務店(兵庫県尼崎市)のモデルハウス
     
外観 (南から見る)  外観(北から見る)
       
玄関 玄関から階段を見る ロフト付き子供部屋
リビング ダイニング

設計コンセプト

建設地は兵庫県伊丹市の東端部、大阪国際空港(伊丹空港)の滑走路まで直線距離で数百メートルの位置にあり、飛行機の騒音が気になる場所である。北側の前面道路は狭く、しかも北西方向からの進入しか出来ない。敷地の西側には水路が流れ少しの潤いを感じるが、東側は進入路を挟んで民家の壁が立ちはだかる。酷暑の中、初めて敷地を見た印象はこんな感じであった。 最初の閃めきは、北西方向から見た先に家の顔をつくる、即ち敷地に対して家の角度を振ってみるということだった。区画整理された道に沿って整然と建ち並ぶ住宅とは違い、斜めから進入してくる敷地に対しては、あえて家を振ることで正面を向かせ、結果としてリズムが生まれる。それにより、不整形の空地が確保できるため駐車がし易くなり、敷地北西部の張り出し部分がパーキングに使えるのではないかと考えた。奥行きが乏しい敷地にあって、対角線上に延びる空地(緑地)は視線が遠くへと運ばれ、面積以上に広さを感じさせてくれる。こうして、家の配置と大きさが決まっていった。         

 次に考えたのは、飛行機の騒音対策である。夜間飛行は無いが、日中は毎日飛行するので、在宅時に少しでも休息できる方法を思案した。最近の窓は高性能であるため、閉めれば爆音を小さくすることは可能であるが、それでも音漏れを完全に防ぐことは出来ない。防音とは相反する話だが、陽気が良ければ、窓を開けて新鮮な空気を入れたくもなる。そこで、ふと思ったのは土間の活用である。暮らしに必要な土間をバッファーゾーンとして機能させ、防音だけでなく温熱環境のコントロールも図ろうと考えた。

 2階のリラックスコーナーも同様の目的で設けているが、飛行機を眺めるための場をも兼ね備えている。最上階のロフトは眺望が出来る収納部屋でありつつ、緩やかなバッファーゾーンとしての機能も持たせている。 都市部における住宅のあり方は、立体として解くことに尽きる。それは、単純な階を重ねるだけではなく、中間階を挟みながら空間をリズミカルに広げていく手法である。こうすることで、高山の民家のように淀みのない空間が構築でき、どこに居ても楽しく、また家族の気配が感じられる家になるのである。このモデルハウスは、垂直方向だけでもいくつものフロアがあるのだが、これに水平方向のバッファーゾーンが重なり合うことで、魅力的な立体空間が生まれることになった。様々な層が織りなす室内は、あらゆる方向から光が射し込み、どこからか爽やかな風が吹き抜けていく、まるで森の中を散策しているような感覚に近いのかもしれない。
 
小住宅において、問題になるのが収納の確保である。一口に収納といっても、用途によって寸法が異なる。奥行きだけ考えても、文庫本、コーヒーカップ、小皿、タオル、靴、掃除道具、和服、洋服、座布団、布団、季節用品等々、数え切れないほどの種類があり、これらを適所に配さなければならない。与えられた面積の中では不足することが予想されるため、これも先にあげたように家全体を立体として捉え、法的に許される範囲内(床面積から除外)で高さを巧みに利用する方法を考えた。具体的には、2階と小屋裏に物入扱いの収納部屋、階段踊り場下には文庫本収納、畳コーナーの床下には布団収納など、さりげない仕掛けによる収納を設けている。

 伊丹は、かつて清酒発祥の地として酒造業で栄えたまちで、美しい瓦屋根の建築が通りを形成していた。今ではその多くが飲食店や土産店へとリニューアルされてはいるものの、当時の建築が残る町並みは美しさをそのままに変貌を遂げている。昔から使用されてきた瓦という材は全国各地で製造されているが、その土地の土を用いることによる質感や色合いは、他に代えがたい魅力を引き出しているように思う。自然災害が猛威を奮う今だからこそ、次世代にも耐えうる瓦屋根を受け継いでいくべきなのではないだろうか。いぶし銀に輝く大屋根には、大地に根付くプロポーションの家が良く似合う。(村松篤)

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